Toshi Yoroizukaオーナーシェフ 鎧塚 俊彦 さん「夢には、人を惹きつけて巻き込んでいくチカラがある」

2023/08/25

Toshi Yoroizukaオーナーシェフ 鎧塚 俊彦 さん「夢には、人を惹きつけて巻き込んでいくチカラがある」

Toshi Yoroizukaオーナーシェフ 鎧塚 俊彦 さん インタビュー

パティスリー「トシ・ヨロイヅカ」のオーナーシェフ、鎧塚俊彦さんは、日本を代表するパティシエ。ライブ感を重視した独自スタイルを確立、スイーツを通して農業と地方を活性化するなど、次々と新たな地平を切り拓き続ける鎧塚さんに、創造力の源についてインタビューしました。

「湧きあがるような創造力を培うために
インプットすることが大事」

― 長年にわたって魅力的なスイーツをつくり続けている鎧塚さんですが、スイーツづくりのアイデアはどのように生まれてくるのでしょうか?

スイーツの本場・ヨーロッパで修行していた時代は、いろいろな名店へ足を運んだりたくさんの本を読んだりして、まずは「真似ること」から学んでいました。若い頃は吸収するものが大きいですし、真似をして学ぶことは悪くないと思うんですよ。ただし、経験を積み重ねてくると、自分の中から湧きあがるような創造力が必要となってきます。

音楽でもお菓子づくりでも同じだと思いますが、何かから刺激を受けることはとても大事です。私も自分のお店を持つようになってからは、スイーツの素材を求めて産地へ直接足を運んだり地方の農家の方々と交流したりして、大きな刺激を受けています。今は、神奈川県の小田原市に果樹や野菜の農園と、南米のエクアドルにカカオ農園をつくって、野菜や果物など素材を栽培するところからスイーツづくりに取り組んでいます。



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― 何かから刺激を受けることを大事にするようになったきっかけはありますか?

ヨーロッパでコンクールにチャレンジしたことでしょうか。実は私自身はコンクールに重きをおいていなかったのですが、経験することも大事だと、ある時意を決して参加したのです。当然ながら優勝をめざすには相当な努力が必要で、私はオリジナルスイーツのインスピレーションを求めて、パリ屈指の高級エリアにある名だたる宝石店を見てまわったり、さまざまな美術館をめぐったりと街をひたすら歩いてまわりました。

それは単に宝石の形状をスイーツのデザインに活かす、というような表面的なことではありません。人が貪欲に何かを求めて求めて枯渇している状態の時、ちょっとした刺激でもスポンジが水を吸い込むようにギュッと大事な何かを吸い込むことができるものです。いろいろなことにアンテナを張りめぐらせてインプットすることは大事ですね。


― 今もそんな風に何かに刺激を受けることはありますか?

先日見に行ったアーティストのガラス作品はとても興味深くて、面白いなと刺激を受けました。ガラス作品はスイーツの世界でいえば飴細工につくり方がそっくりです。飴細工は思い描いた形と全然違うものができあがることがあって、思い通りにならないところに逆に面白味があると常々感じているのですが、先日会ったガラスアーティストはそれを許さないんですよ。狙った形がつくれなかったら壊してしまう。彼は偶然の賜物と技術は別の問題だと言う。私の考え方とは違うんですけれど、そういう自分と異なる個性に触れるのはすごく面白いですよね。

ヨーロッパにいた8年間はどんどんインプットしていく日々で、帰国してからはとにかくそれを新たなスイーツづくりにアウトプットしてきました。そろそろまたインプットしなきゃなと、改めて感じています。



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「ミカンの個性を何に使うかによって
唯一無二のミカンになる」

― お客様の目の前でつくる「ライブデザート」や自社農園での取り組みは、どんなきっかけで始まったのでしょう?

お店を始めて20年になりますが、農園やライブデザートなど独自のスタイルを築いてきた背景には、「私には才能がない」というコンプレックスがありました。手先も不器用だし、センスもよくない……。本当にいろいろな人に助けていただいてここまで来ることができました。とはいえ、このポジションに満足して、次のステージへ進まないわけにはいかない。ではどうすればいいのか? と考えた時に、「お客様の目の前でデザートをつくりあげるというのはどうだろう」というインスピレーションを得てスタートしたのがライブデザートです。それが評価されてお客様の期待がさらに高まってきて、次はどうすれば? と取り組み始めたのが、小田原やエクアドルの農園でした。



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― 農園での素材づくりは、スイーツをつくる上でどんな影響をもたらしているのでしょう?

例えばミカンを例にお話ししますと、自分の店を持ってある程度名が知れるようになってからは、各地から「スイーツに使ってほしい」とさまざまなミカンが送られてきて、当初は味や質のいいミカン、悪いミカンを区別して使っていたんですよね。ところが、自分でミカンを栽培するようになってからは、いいミカンも悪いミカンもない、すべてが自分のミカンなんです。農園では日当たりの悪い場所で育つものも当然あります。すると皮が分厚くて苦味があったり、実の酸味が強いミカンができたりする。でもそれはそれで、ものすごく使える価値があるんです。

収穫したミカンの個性を何に使ってあげるかによって、唯一無二のミカンになります。おいしいものばかりを集めて焼き菓子にしたらおいしいか? というと決してそうじゃないんですよね。

ミカンは収穫シーズンが終わったら、木を1本1本剪定して次の季節へ向けて手をかけていきます。一年労力をかけて大切に育てて収穫した果実は、どう使ってあげるのがよいか、ものすごくクリアに見えてくるんです。スタッフに「素材を大事にしろ」と口だけでいくら伝えても実感としてよく分からない。ですから、スタッフも一緒になって農園で素材づくりから手がけています。

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「夢へ向かって
諦めることなく歩み続けることが大事」

― 創造力を発揮するには「貪欲になることが大事」とお聞きしましたが、貪欲になるにはどうすればよいでしょうか?

見えない目標へ向かって、逃げることなく自分を追い込むことではないでしょうか。例えばライオンが獲物を狙う時、「アーティスティックに……」などと考えてはいないでしょう。何とか獲物を仕留めようという本能と飢餓感ですよね。「夢がない」「目標がない」という人がいますが、自分を傷つけないために諦めている人もいるんじゃないかな。もちろん、家族で幸せに暮らすという夢も素晴らしいと思います。でも「日本一をめざしたい」「目標を達成したい」など、やりたいことが明確にある人は、何が何でも諦めずに芯を持って、自分自身をハードに追い込むことが重要です。人間はどうしても楽に生きようとする側面がありますからね。

今の時代、若い人たちに同じことは求めませんが、私自身は「いつか自分の店を持って、おいしいお菓子をつくり続ける」という明確な夢がありましたから、毎日ハードに長時間働いてもそれを苦労と感じたことは一切ありませんでした。すべての体験が自分の夢に繋がっているという意識がありましたね。「働かされている」「苦労している」と感じることがあるとすれば、それは夢を失った時ではないでしょうか?

イチローさんも大谷翔平選手もトップクラスへ昇りつめるまでの道は厳しく、苦しんできたと思います。目標へ向かって険しい道のりを歩んでいくと、どんどん飢餓感が募って乾いたスポンジのようになってきます。すると、普段なら何ということのないただ一滴の水でもちゃんと身体の中に染み込んできますから、自分を追い込むという体験は大切ですね。



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― お皿の上に美しいスイーツを日々描いている鎧塚さんですが、普段、手で書くことはありますか?

「書く」という行為はとても大切にしています。万年筆で手紙を書いたりボールペンでメモをとったり、普段から本当によく手書きをしていますよ。いつもノートを持ち歩いていて、打ち合わせで出たいろいろなアイデアを書いたり、スタッフに伝えたい内容をメモしたり、次々に浮かんでくる言葉を忘れてしまわないように書き留めています。



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― 最後に、鎧塚さんにとって創造力の源を一言で表現するなら、どんな言葉でしょうか?

やっぱりそれは「夢」という一言に尽きますね。夢への強い想い、そして夢へ向かって歩み続けることが大事です。

音楽プロデューサーの秋元康さんとお話ししていて印象的だったのが「アイドルの絶対条件は『根拠のない自信』だ」という言葉。歌や踊りが上手くなくても「私たちにはできる!」という自信、疑問を抱かず一生懸命突き進んでいくエネルギーが日本中を熱狂させるほどのムーブメントを生んだのですね。どんな逆境でも諦めないで続けること、それはすごく大事なエッセンスだと思います。

私自身も「おいしいお菓子をつくり続ける」という夢はもちろん、「世界の人々の平和」そして「アジアが一つになって文化圏をつくり上げていく」といった大きな目標から、親方として「スタッフとスタッフの家族の幸せを守る」という目の前の目標まで、いくつかの夢を掲げています。

「夢」には、人を惹きつけて巻き込んでいくチカラがある。スタッフ一人ひとりが自分の幸せを明確にして夢へ向かって歩んでいけるように、親方としていろいろな夢の可能性を提示する必要があります。そして私自身も「この人と一緒なら、ひょっとしたらできるんじゃないかな」とスタッフに感じさせるような強い想いを抱き続けていきたいですね。



鎧塚 俊彦 さん Toshi Yoroizukaオーナーシェフ
1965年生まれ。関西のホテルで修行後渡欧し8年修行、2004年東京恵比寿「Toshi Yoroizuka」開業。その後六本木・東京ミッドタウン、杉並、小田原に店舗を展開。素材づくりを重視し、2010年にエクアドルに自社管理カカオ農園「Toshi Yoroizuka Cacao Farm Ecuador」、2011年には神奈川県小田原の石垣山山頂に2000坪の農園とレストラン併設の「一夜城ヨロイヅカ・ファーム」オープン。2016年に東京・京橋に旗艦店「Toshi Yoroizuka TOKYO」オープン。農業に関する積極的な姿勢と、次代の菓子職人育成、日本の食文化の発展・推進をも目指し、日々より良き菓子づくりに奔走中。

Toshi Yoroizuka公式サイト http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuka/



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