モデル 市川 紗椰 さん「私にとって『かく』ことは写経のようなもの」

2023/12/25

モデル 市川 紗椰 さん「私にとって『かく』ことは写経のようなもの」

モデル 市川 紗椰 さん インタビュー

本業のモデルのほか、鉄道や食べ歩き、アート、音楽......さまざまな分野のカルチャーの楽しさをメディアで発信している市川紗椰さん。落書きのようにペンを走らせる行為は、邪念を払い、自分をととのえる写経のようなもの、と話す市川さんに、「かく」ことについてじっくり伺いました。

「気がつくと何かしら落書きをしています」

― まず、どんなときに「かく」ことが多いですか。

ノートに地図を書いたり、台本の文字をなぞったり、書いていることに意味はありませんが、もともと「かく」という行為そのものが好きなんです。ペンを紙の上で滑らせる、その動きが好きで、気がつくとノートや台本に落書きのように書いています。



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書いているときは、何も考えていません。無心でペンを走らせているうちに、頭の中がすっきりして気分転換できます。私にとって「かく」とは、写経のようなものです(笑)。書き心地の良いペンで書くと、ただそれを味わっているだけでも気持ちよくて。

たとえば私は架空の地図をよく書きますが、ここに住みたいといったイメージは全くなく、もうただ細かいものを書いて紙を埋め尽くすだけ。ここは緑を増やそうとか、このあたりに鉄道を敷こうとか、ちょっとだけお楽しみも考えますが、それも気が向くまま。最後まで書き終わらなくてもOK。それが好きなんです。自分で見直すこともないので、こうやって人に見せるのは、すごく恥ずかしいですね(笑)。



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架空の地図。細かく書き込んでいると、やがてゾーンに入る。



「ペンをいっぱい使えて幸せだった学生時代」

― 子どもの頃から「かく」ことは好きでしたか。

そうですね。小さい頃から「かく」ことは好きでした。昔のアメリカのファミリーレストランって、たいてい紙のテーブルクロスが敷いてあって、そこにお絵描きができるんです。子どもは必ずクレヨンを渡されるので、そこに地図や文字、動物なんかも描いていましたね。



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小学校、中学校、高校と、学生時代はペンを使う機会がいっぱいあって幸せでした。

小学生のときは、インクにラメの入った"キラキラペン"が大流行していて、日本に来るたびに買いあさっていました。中学生以降、勉強するときには、マーカーや、シャープペンシルなど、いろいろなペンを使いました。「このペンを使いたいから」というのが、すごく原動力になっていましたね。使いたいペンがあれば、モチベーションにつながるんです。勉強に煮詰まったときや飽きたとき、勉強するのがいやになったときにペンを換えるだけで、一回リセットできる。このやり方は受験生におすすめです!

私の勉強法は、ノートを一冊用意し、そこに時系列に書いていく方法。1時間目が社会、2時間目が数学なら、社会、数学という順にどんどん書いていきます。教科ごとに分けることはしませんでした。そうすれば、持ち歩くのは1冊で済むし、ノートをパラパラめくっていたら、ほかの教科の内容も目に入る。試験前はノートをちぎって、科目ごとにホチキスでまとめたりもしましたね。

とにかく私は書かないと心や頭に「内蔵されない」という感じがすごくあったので、ひたすら書いていました。それも、ただ書くだけでなく、マーカーで線を引いたり、フォントを変えて書いてみたり、いろいろな工夫をしていました。書く以外は、暗記部分を隠して読み上げたり、誰かに教えたり、といったことは良くやっていたかな。誰かに教えると自然と自分が理解していなかった部分が見えてくるんですよ。

 
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「『漁業協同組合』って、やたら書かされた!」

― 日本語の勉強は、どのようにされていましたか?

日本語の勉強を始めたのは、高校生の時です。アニメや音楽の歌詞を一心に書いて覚えました。なぜかわからないけれど、日本語の授業で「漁業協同組合」って、やたら書かされたのを覚えています(笑)。

仕事で文章を書くようになってからは、最初は英語で書いて、それから日本語に翻訳していました。今では最初から日本語で考え描いていますが、書くことは、いまだに、まだまだ勉強中です。ただ、こんなふうにインタビューしていただく機会が増えて、原稿を確認するときに、自分の話したことが、こう日本語になるんだと知ることも多く、それはすごく恵まれているなと思っています。



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― 日米で文房具の違いはありますか?

日本の文具は楽しいですよ! 私が思いも寄らなかったことを解決してくれる小さな小さなイノベーションに、いつも感動しています。

たとえば、ドクターグリップなら振ると芯が出ますよね。カチカチとノックするのは別に苦じゃなかったのに、いざ振ると芯が出るとなると、もう二度とカチカチしたくない。そういう地味なイノベーションがたまらないですね。他にも消しカスがまとまって机が汚れない消しゴムだったり、それまでそんなに不便を感じていなかったのに、いざ使ってみると本当に便利。自分も気づいていなかった願望をかなえてくれる。私以上に私のことを理解してくれるのが日本の文房具。すごく楽しいです。

ただノート類は、アメリカのほうがバリエーションがたくさんありますね。箇条書きでタスクやアイデアを書きとめる「バレットジャーナル」もそうだし、日記文化が根づいているからか、シンプルな大人っぽいデザインのものもたくさんあります。

周りでも、そういうノートを使って、ジャーナリングしている友達は多いですね。ジャーナリングは〝書く瞑想”とも言われているように一日のできごとや今日あったいいことを書くと、頭が整理されて、すごく心がととのうんですよね。私が写経のようにコツコツ書くことも、まさにそういったマインドフルネス的な作用があります。
※心を無にして「今ここ」に意識を集中させること



「『私って、よく書くな』って気づきました」

― 心を整えるために書くようになったのは、何がきっかけだったのでしょうか?

子どもの頃から好きだった「かく」ことを、「あっ、これ楽しいな」と再確認したのが5、6年前のことです。小学生時代に大好きだったキラキラペンに再会し、懐かしくてときめいて、そこからいろいろ買い集めて、ただコツコツと地図をかき始めるようになったのです。私って、よく書くなって(笑)。コロナ禍で時間があったことも大きいですね。

もともと紙の切れ端にかいていたのを、ノートに書くようになったのもこの頃です。大小の手帳、方眼ノート、バレットジャーナル、スケッチブック……大きさも用途もバラバラですが、その日のバッグの大きさに合わせて、いつも何かしら持ち歩いています。地図や文字は方眼ノートに書くことが多いですが、やることリストや連載のテーマはバレットジャーナル、鉄道や食べ歩きなど出かけたときは、そのときに印象に残った言葉を手帳に残しています。



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「深堀りすることは、コミュニケーションの一環」

― いろいろなカルチャーに精通している市川さん。すべてに深堀りして発信する、その原動力は?

きっかけは、ただ好きで気になっているだけです。意識的に深堀りしようというのではなく、結果的にそうなっただけですが、中学生時代に、音楽を掘り下げていったら、たまたま音楽好きな子と「こういうのが好き!」とか、「こういうのも教えて!」と自由に話せた感覚があって。私はもともと人見知りなので、何かを掘り下げることはコミュニケーションの一環だなと思ったんです。仲間や同志を見つけやすい手段。だから今も私が、「これが面白いよ」、「興味深いよ」と発信することで、多くの人とつながることができるんです。

私は基本的に生産型ではなく消費型のオタクなので、今は私の発信で、その事柄について一人でも多くのファンを増やすことができたらいいなと思っています。たとえばローカル線も経営が厳しいし、アニメ作品も製作費がすごくかかる。私自身、それらからすごく楽しい時間や幸せな気持ちをいただくから、私の発信によってなるべく多くの人がそこに興味を持ってもらって、ちょっとでも応援できたらいいなと思う気持ちがあります。ですから、ただ単に「好きです」で終わらせず、ちゃんと普及につながるような発信は心がけています。



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「かくことはほかでは得られないスッキリ感がある」

― 最後にあらためて、市川さんにとって「かく」ことの魅力を教えてください。

かくことは、フィルターなしにふわ~っと脳に直結する作業なので、もうとにかくスッキリする。そういう気分転換や心の安定にもつながるし、とにかく手軽。ペンと紙さえあれば、いつでもどこでもできますし、何をかけばいいのかわからないときも、ただ四角を書き並べるだけでもいいし、文字をなぞるだけでもいい。スキルも技術もクリエイティブもいらない。でもこのスッキリ感は、ほかでは得られないものです。



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お気に入りのペンで色をつけると、気分もリフレッシュされる。

そう、私は「ペンの力」、「かくことの力」をすごく信じているんです。

だから、いくらデジタルの時代がきても、私はこれからもずっと「かく」ことは続けていくと思います。



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「ペンを持たない人は羽のない鳥のようだ」



市川 紗椰 さん モデル
1987生まれ。父親はアメリカ人、母親は日本人。4歳から14歳までアメリカで育つ。早稲田大学卒業。ファッションモデルとしてデビューし、現在はラジオ、テレビなどにも多数出演。趣味は、鉄道や食べ歩き、アート、音楽、相撲、アニメなど多岐にわたる。

市川紗椰さんHP https://blue-label.jp/management/saya-ichikawa/

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