アナウンサー 武田 真一 さん「僕にとって文具は、自分の身を守ってくれる心強いもの」

2024/03/29

アナウンサー 武田 真一 さん「僕にとって文具は、自分の身を守ってくれる心強いもの」

アナウンサー 武田 真一 さん インタビュー

日本テレビ系列、朝の情報番組『DayDay.』でMCを務めるアナウンサーの武田真一さん。番組内で「文具大好き」と公言するほど、文具にこだわりがあることで知られています。武田さんの愛用する文具から書くことへの思い入れまで、じっくり語っていただきました。

「文具こそアナウンサーのプロの道具」

― 武田さんは「文具好き」と伺っています。文具が好きになった経緯を教えてください。

僕たちアナウンサーというのは、道具を使わない仕事です。だから僕は、美容師さんのハサミ、大工さんの工具といったプロの道具への憧れが強く、ずっと自分なりの道具を持ちたいと思っていました。それが、あるとき「文具だ!」と。

台本にコメントを書き込む、ニュースのスタジオでメモをとる、フリップをペンで指す......、文具なら毎日使うし、不可欠。これこそアナウンサーのプロの道具だと思ったんです。そして、どうせなら自分が愛着を持てるものにしたいと、どんどんこだわりが強くなりました。

実は文具というのは、僕たちにとって、現場で自分の身を守ってくれる重要なものでもあります。

たとえば若い頃、台風中継で現場に行ったときのこと。大雨の中、自分でコメントを書いたメモ帳を見ながら、しゃべるわけですが、普通のメモ帳に水性ボールペンで書くと、メモはヨレヨレで、文字も雨で流れてしまって読めない。

そこで何かいいものはないかなと探したら、ダイビングショップにプラスチックシートのようなノートがあったんです。そのノートに油性のボールペンで書くと、雨に濡れてもきちんと読めることがわかり、それをいくつも買って、雨が降りそうなときはそのセットを持って出かけるようになりました。

また貼ってはがせる「カバーアップテープ」という白いテープも必需品です。カンペなどに貼って文字を修正できるので、あるのとないのとでは現場の流れが全く違ってきます。

そんなふうに材質がひとつ違うだけで、そのときに仕事ができるかどうか変わってくる文具は、僕にとって自分の身を守ってくれる"武器"と言うとちょっと物騒ですが(笑)、それぐらい大切で心強いものです。


「手書きのよさはスピーディなこと」

― ふだんよく使う筆記具は、どんなものですか?

蛍光ペン、シャープペンシル、万年筆です。

生放送では、とっさに手元のメモや台本を見てしゃべることが重要なので、あらかじめ台本で重要なところには蛍光ペンでマークし、自分のコメントは付箋に書いて貼り付けておきます。

ただし台本には黄色いマーカーが使われていることもあるので、僕が使うマーカーは、自分が引いたことがわかりやすいようにもっぱら緑かピンク。シャープペンシルは、軟らかければ軟らかいほど書きやすいので、芯は2Bです。台本のセリフの文字は黒で書かれているので、目立つようにコメントにはブルーの芯を使います。

万年筆は、お礼状やちょっとしたメッセージなどを書くときに愛用しています。手紙を書くのは好きですし、もらうのも、もちろん大好きです。

手書きのよさは、なんといってもスピーディなこと。僕たちは常に時間との戦いなので、本番中にパッと書けることが重要です。たとえば生の記者会見を中継する場合、会見の内容を手元の紙にさっと書いておく。パソコンを使うより、ずっと速く書けます。僕にしか読めない文字ですけれど(笑)。

生放送中に書くだけでなく、事前に調べたことや考えたことも、まとめてノートに書いています。そうやって自分が吸収した知識の痕跡のようなものが、目に見えて増えていくのも手書きの醍醐味ですね。ノートはたくさんたまっていますが、なかなか捨てられません(笑)。



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左:いつも持ち歩く筆箱には、蛍光ペンのほか、シャープペンシルや定規など"七つ道具"を入れて。右:愛用の万年筆。手紙を書くときは『カスタム ヘリテイジ92』を使う。

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自作のノートも重要なところは、蛍光ペンでマーキング。スポットライターVWは、1本で2色使えてペンケースもかさばらないと愛用中。

 
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「何を書くかよりも『書く』ことが楽しい」

― 書くことが好きになったきっかけは、なんだったのでしょうか?

もともとは万年筆との出合いが大きくて。社会人10年目ぐらいのときに、初めて自分で万年筆を買ったんです。手頃で安価な銀色をしたペン先の万年筆でした。

その頃、僕は毎日手帳に、今日はどうしたとか、うまくいかなかったとか、一人反省会のように短い日記を書いていました。それが自分としては、あまり楽しい時間ではなく、少しでも楽しくしたくて、万年筆で書いてみようと思ったんです。それで自分で買った万年筆で書いているうちに、だんだん楽しくなってきました。

何を書くかというよりも、「書く」という行為が楽しかった。自分で書いた文字がずっとノートの左側に残っていく、それを見ることが面白い。筆記具には、そういう力がありますよね。

僕のその万年筆は、調子がよくないときもあり、いつもスムーズに書けるわけではありませんでした。でも、それがいい。ときどき、かすれたり、引っかかったりするから、角度を変えながら、どうやったらきれいに書けるかなと、そういう工夫も楽しんでいました。 特に仕事に行き詰ったときに、決して書きやすいとは言えない万年筆で無心に書いていたら、どんどん頭が活性化して、文章をスラスラ書けたり、いろいろなアイデアが出たりすることもありました。

自分の“肉体”を使って書くことで、自分の中から表現が出てくるのでしょうね。

肉体で表現するという意味では、“手で書いて伝えること”と“声に出して伝えること”は似ています。アナウンサーの仕事も、肉体を使って表現することは重要です。

たとえば、とんでもなく大きい声で「おはようございます」と言うと、やっぱり元気が出るし、力強い表現になる。肉体を使って表現すると、自然と言葉の選び方や全体の雰囲気を明るくできる。反対に体調や気分がよくないときは、沈んだ声になります。

だから『DayDay.』での第一声、「おはようございます」は、意図的に元気よく大きな声で言おうと努めています。

そして万年筆を使って手で書いたものも、声に出したものも、一度出したら消せません。だから書くことも一発真剣勝負、生放送という気がします。



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軸のギロシェ加工(細かい彫り柄)がお気に入りのカスタム74限定品万年筆。持っているだけでうれしくなる一本。



「交換日記や自作問題集、子育てでもよく書きました」

― 子育てでも「書く」ことを大切にされていたそうですね。

僕には、社会人の長男と大学3年生の次男の二人の息子がいますが、二人が小さいときも、よく「書く」ことはしていましたね。

長男が幼稚園年長の頃は『ハリー・ポッター』を毎日読み聞かせしていました。そうしたら自分ひとりでもどんどん読むようになり、そのうち物語のようなものを書くようになりました。本の力ってすごいですね。

長男は、とにかく文字が大好きで、ペットボトルのラベル文字なんかも、じっと見て読んでいました。

次男とは、幼稚園年長の頃から交換日記を始めました。子どもが今日あったことを書いたら、そこに僕がコメントする。「よかったね」「頑張ってね」、それぐらいです。それを2年ぐらい続けて、そのあとは彼ひとりで書いていました。

いまは大学3年生ですが、この前また日記を書きたいといって、自分で日記帳を買ってきていましたね。

また、次男は小学校のときサッカーに夢中で、中学受験に際してなかなか塾に行くことができませんでした。それでどうしようかということで、僕が塾のテキストの問題をノートに写して、穴埋め問題を作ったんです。順番に埋めていくと、ひととおり、例題の解き方がわかる自作の問題集です。算数なんかの数式や図形は、パソコンで書けないので、やっぱり手で書いていました。

当時、僕は夜のニュース番組の担当で、昼からの仕事でしたので、午前中に問題を作って、子どもの机の上に置いて出る。子どもは帰ってきたら、それをやって、僕が夜帰ったら、丸つけをして、また翌朝に問題を書くという生活。子どもはサッカーの練習をしながら、ちゃんとそれをやって、間違えたところも復習していました。

そうやって息子とつくったノートも、やっぱり捨てられない。手書きのものは、捨てられないですね。



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「感情にまかせて口にしないためにもメモをする」

― 武田さんをふだんテレビで拝見する限り、体調や気分で表現が変わることなく、とても安定しているようにお見受けします

皆さんそうだと思いますが、プライベートで何かあっても、仕事は仕事で自分のルーティンは果たさなければいけない、というのはありますね。

もちろん、いろいろなニュースがある中で、そのニュースについて何も思っていないわけではありません。悲しいニュースであれば、心が揺さぶられますし、政治の不祥事があれば、強い憤りを感じます。

ニュースですから、情報を真水のような状態でお伝えしなければならない。ですから自分は真水を運ぶ堅牢な水道管のように、とにかく今は伝え続けるんだ、そんな思いでやってきました。

でも心のどこかで何も感じていないわけではない、ということも伝えたい。それは水の中にある微量のミネラルのようなもので、声の調子や表現で生身の人間が伝えていることを表したいという気持ちがあるのです。

そのためには無機質に伝えるのではなく、自分の思いを込めながらしゃべる。思いを込めれば、あえて表現しなくても、視聴者の方は何か違うものを感じてくださると思うのです。

思いを込めた表現をするには、まず自分がその事実を「どう見るか」が大切。そして、そこを短い言葉で的確に伝える。そのときに大きな役目を果たすのが、やはり手書きのメモなのです。

たとえば災害のニュースを伝えるときに、僕は「被災した方々が、厳しい環境で暮らしている。綱渡りで生き抜くことが精いっぱいの状況……」といったメモを残しています。

これをある種の怒りを持って伝えるのか、現場の悲しみに寄り添って伝えるのか、そういうことを計算しながら思いを込める。思ったことをやみくもに感情にまかせて言うのではない。だからこそ、メモが必要になるのです。



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大谷選手のドジャース入団会見時のメモ。事前に調べたことや考えたことは、ノートにまとめておく。方眼ノートなら、自由に書ける。



「世の中のとらえ方を示す羅針盤の役割を果たしたい」

― 武田さんの読むニュースが、人間味を感じさせる理由がわかりました。最後に、武田さんが仕事で大切にされていることを教えてください。

ニュースというのは「今日こういうことがあった」と、毎日起きている出来事そのもの。長い人類の歴史の中で、今日起きたこの出来事が、歴史の中でどう位置づけられるのか、怒っていいのか、悲しんでいいのか、スルーしていいのか、それを毎日考えながら、言葉にして伝えていくのが、僕の仕事です。

いまは一つのニュースについて、ネットでもいろいろな意見が出てくる時代です。もちろんみんなが好きなことを表現することは大切ですし、僕もその一人ですが、少なくともテレビという多くの方に信頼していただいているメディアで発言する機会を与えられている人間としては、好き勝手なことは言えません。私が言うなら多くの皆さんに「そうかな」と思っていただかなければいけない。

だからこそ僕は、一つひとつの出来事について、とことん考えます。毎朝5時に起きて、テレビ局に着く朝6時40分ぐらいまで、マネージャーでもある妻ともほとんどしゃべらない。車の中でも、最近起きたことをどう伝えようか、ゲストの方から問われたらどう答えようか、ずっと考えている。そのときに漠然と考えるのではなく、手を動かす。みんながわからないことを言葉や文章にして、とりあえず自分の中で「そういうことか」と腑に落として、また次の出来事に向かう。

僕は、いまの世の中で起きていることを、どうとらえたらいいか、という“羅針盤”のような役割を果たしたいと思っているのです。

いま、世の中がこれほど複雑で、先が見通せない中、毎日起きていることが、この先の僕たちの社会にどういう影響を与えるのか、全くわかりません。

だからいま言うべきことを、ノートに書いて、書いて、整理していく。

僕にとって、「文具は身を守るもの」ですが、「書くことは命綱」のようなものかもしれません。



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武田 真一 さん アナウンサー
1967年生まれ、熊本県出身。1990年に日本放送協会(NHK)に入局、『NHKニュース7』『クローズアップ現代+』などのメインキャスターを務める。2023年2月、NHKを退局し、フリーに。同年4月から日本テレビ系列情報番組『DayDay.』のMCとして出演している。

<撮影協力:銀座 伊東屋 G.Itoya 10階 HandShake Lounge>

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