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開発者に聞く、フリクションインキ開発の道のり

  しっかり書けて、きれいに消えるフリクションシリーズ。
実用的な筆記具として安定した性能を実現するために、研究者たちが費やした年月は30年以上にわたります。この"夢"の実現に邁進した日々を、フリクションシリーズの開発リーダーだった千賀氏に聞きました。

"変身するインキ"を進化させ続けた30年

  フリクションシリーズには温度変化で色が変わるインキが使われています。実はこのインキのはじまりは、"自然"から発想を得たものでした。
  きっかけは今から30年以上前、ある研究者が一夜にして紅葉に変わる魔術のような自然の力をビーカーの中で再現したいと考えたことが発端でした。
  やがてその思いは結実し、1975年「温度変化によって色が変わるインキ」の基本技術の開発に遂に成功します。
  インキの名前は変態・変身=メタモルフォーゼというラテン語から『メタモカラー』と命名されました。

  このメタモカラーは一定の温度になると変色し、常温に戻ると元の色が復活します。現在のフリクションインキは65℃で色が消え、-20℃で復色するよう変色温度幅を85度に設定してありますが、当時のメタモカラーはこの温度幅がわずか数度と非常に狭く、変色と復色の温度設定も厳密ではありませんでした。一度消した文字が常温で復活してしまうようでは、実用的な筆記具としての商品化は望めません。私たち研究者は、この壁に30年近く挑み続けてきました。

開発過程で生まれたさまざまなアイデア商品

  筆記具への応用はなかなか叶いませんでしたが、地道に改良を続ける過程ではさまざまな企業とコラボレーションする機会があり、ユニークな製品を生み出すことができました。

  1980年代には、米国のグラスメーカーと共同で絵柄が変わるグラスを作りました。木がデザインされたグラスに冷たい飲み物を注ぐと、低温で復色するメタモカラーが反応して木に花が咲いたり雪景色が現れたりする製品です。反対に、高い温度で消色する特性はマグカップに応用されました。これらは常温になると元の状態に戻ります。メタモカラーのこうした性質は、お風呂の中で遊びながら文字を覚えられる知育玩具などにも利用されています。

  さらに、設定した温度帯だけに鋭敏に反応するインクも開発され、90年代からは示温剤として広く利用されるようになりました。飲料メーカーの冷酒やワインなどのラベル印刷に使用され、10℃などあらかじめ設定した温度になると『飲み頃』の表示が現れるといったものです。

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実際に使用に耐えるインキ

1,000種類以上の化合物を試験してフリクションインキは生まれました。

フリクションシリーズは進歩を続けます。

研究者仲間共通の想いは「本業で成功したい!」

  さまざまなメーカーとの共同開発は私たちにとって非常に面白く興味深いもので、視野を広げる良い機会ともなりました。しかし、私たちの本業はやはり筆記具メーカー、「いつか必ず"消せる筆記具"を開発する」という目標をあきらめたことはありませんでした。

  ボールペンの先からなめらかにインキを出すには、インキの粒子をできるだけ小さくする必要があります。しかし、メタモカラーはマイクロカプセルの中に3つの必須成分(※#1.開発者に聞く、インキの仕組み参照)を入れる必要があるため、粒子が大きくなってしまうのです。私たちはどうしてもこのインキでボールペンを作りたかった。そのためには、マイクロカプセルの強度を保ちながら粒子の大きさを5分の1にしなければなりませんでした。しかも、ボールペンインキに配合されている溶剤や添加物は、一般的にはマイクロカプセルと相性の悪いものが多いため、マイクロカプセルの膜は、それらに対して耐久性のあるものにしなくてはなりませんでした。そのために、マイクロカプセル用膜材の材料調査とカプセル化の方法・条件の検討には、多くの時間を割くことになりました。当時、昼夜問わずに開発を続けていた私の研究室は社内で"不夜城"と呼ばれていたんです(笑)。

技術革新の成果が出揃った2002年が転機に

  2002年にはマイクロカプセルを筆記具用インキにも応用できる2〜3ミクロンに小型化することに成功しました。人間の毛髪の直径は80〜100ミクロンですが、2〜3ミクロンとはその40分の1程度の大きさです。

  さらに同時期に、長年取り組んできたインキの色を変える働きをする変色温度調整剤の研究開発も大きく進歩しました。最初は既成物質を利用していましたが、最終的には世の中のどこにも存在しないオリジナルの化合物を1,000種類以上作り続けました。その結果、不可能と思われていた、期待以上のメモリー機能を有する新しい変色温度調整剤を見出すことができました。

  フリクションインキの変色温度幅は摂氏65℃から-20℃に設定されました。この成果によって、通常の生活環境においては消した色が自然に復活してしまう可能性は限りなく少なくなりました。こうして2005年に、ついに実用筆記具としての製品化が実現したのです。

今も地道に歩き続ける、次の夢への道のり

  1975年以来、多くの研究者のリレーによって進化してきた独自の技術力に大きな感慨を覚えます。しかし、私たちの夢はまだまだ終わりません。フリクションインキのマイクロカプセル粒子は2〜3ミクロンまで小型化することができましたが、写真印刷などに使われているインクジェットインキは0.1ミクロン程度なのです。マイクロカプセルの粒子が細かいほど、鮮明で詳細な画像を印刷できます。私たちも将来はフリクションインキをさらに進化させるつもりです。世の中のあらゆる場面で使っていただけるよう、大きな夢を持って取り組んでいます。

<お話を伺った方>
パイロットインキ株式会社 第一開発部 千賀 邦行
※所属は取材当時のものです。
いろいろなシーンで”消える”を活用。|フリクションシリーズのご紹介

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