書くことで、心がととのう
手にとるたび指になじみ、寄り添ってくれる。
ペン先が言葉を紡ぐたび、心の奥にある気持ちまでそっと呼び起こしてくれる。
----万年筆は、そんな奥深い筆記具。
日常にささやかな静寂をもたらし、「書くこと」が、自分と向き合う時間になる。
そんな万年筆で書くことの愉しみを一つずつすくいとって綴る、小さなストーリー。
万年筆で書いた文字は、その人そのもの
大切なあの人に思いを巡らせ、
伝えたいことや気持ちを言葉にしていく。
万年筆の味わいあるインキの濃淡と文字の個性は、
その人の息づかい、その人の佇まいそのもの。
万年筆で書いた文字にはその人の温もりが、ある。
どうしてるかな、懐かしい顔が浮かぶ
あわただしい日々に、ぽっかりとなにもない休日。
久しぶりに挽いた豆でコーヒーを淹れ、
読みかけの本とお気に入りのソファに向かう。
気づいたら、懐かしい顔が頭に浮かび、
笑うと、微笑み返してくれた。
もう何年会ってないだろう、元気かな。
リラックスできるサウンドスケープ
そういえば、借りたままのレコードがあった。
机に向かう前に、ターンテーブルにのせると
あの頃の思い出が駆け巡る。
70年代の心地よいジャズ。
書く時間に寄り添ってくれるBGM。
リラックスできる雰囲気が部屋に満ちていく。
ブルーブラックの飾らない気品
万年筆は30歳の誕生日、自分へのプレゼント。
選んだインキは、ブルーブラック。
派手さのない、どこかしら抑制された色。
澄んだ青のなかに、凛とした黒の気品を感じる。
ふたを開けると、夜明け前の空のような藍に
さし込んだ光が揺らいだ。
インキを吸い上げる、無心になるひととき
コンバーターをゆっくりと押し下げ、
瓶からインキを吸い上げる。
少しずつ、インキが上っていく。
----黒に溶け込む寸前の青。
静謐な、奥深い色。
どんな流行や時代も超えていく、
洗練された気品と艶をもっている。
14金のペン先とインキの共鳴
金と青の美しい対比。
やわらかな布が、インキを静かに吸いとる。
ゆっくりと滲みながら、白に広がる青は
生きているかのように艶めかしい。
ゆっくりと書き綴る、万年筆の流儀
万年筆は、けっして急かさない。
急ぐより、ていねいに書くことを好む。
一文字一文字、大切に記していく。
便せんの上をすべる微かな音、
筆圧に応えてわずかにしなる、ペン先のしなやかな佇まい、
インキの繊細な濃淡。
筆先のゆらぎや余韻に心を傾け、書くことに入り込む。
インキの文字には、人の温もりがある
人が書くインキの文字の濃淡やクセは
その人の息づかい、その人の佇まい。
万年筆で書いた文字には、その人の温もりがある。
懐かしくて、温かい。切なくて、愛おしい。
そんな自分にとって大切な、人のにおいがする。
万年筆には人を幸せにするチカラがある。
書くことで、心が澄んでいく
書き始めはたどたどしくても、
ペン先が紙をすべるうちに
インキに導かれて自分の言葉が湧いてくる。
あの頃のこと、近況報告、ふとした気持ち、
どうしても伝えておきたいことや出来事。
懐かしいあの人を身近に感じながら
素直な気持ちがペン先から、溢れ出す。
言葉がひとつひとつ、紙の上に降りてくる。
日常にはない、魔法のようなひととき。
自分と向き合い、自分に還る筆記具
書いていると思考はゆるやかに澄み、
心の奥底にあった感情や景色が、そっと姿を見せる。
書くことで、自分にしか聞こえない声が
少しずつ輪郭を持ち始めたように感じる。
忘れかけていた自分と出会い、自分に還っていく。
心がととのい、新しい気づきをもたらしてくれる。
万年筆は、心を調律してくれる小さな相棒。
言葉を綴る合間のひと息
気づいたら、思いのほか時間がたっていた。
コーヒーをもう一杯、淹れよう。
万年筆を置いて、机を離れてみる。
あと少しで、書き終えそうだ。
静かな時が流れ、書き終えた余韻に浸る
言葉を書き上げて、心をゆるめる。
書くことでしか訪れない静けさがある、と気づく。
デジタルの便利さでは得られない、
かけがえのない休息。
「書く」ひとときが、
今日も心をそっとほぐしてくれた。
文/月並 薫
万年筆 カスタム742 ブラック / PILOT |
ボトルインキ ブルーブラック30ml / PILOT |
Outfit
ニット/ジョン スメドレー(リーミルズ エージェンシー) https://www.johnsmedley.co.jp
パンツ/レッドカード トーキョー(ゲストリスト) http://redcard.tokyo
ソックス/パンセレラ(真下商事) https://www.pantherella.jp
メガネ/PINE(フォレストパイン・デザインラボ) https://wearpine.com
撮影協力/PROPS NOW
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