元プロ野球選手 斎藤 佑樹 さん 「これから体験することは、野球の未来にすべて還元したい」

インタビュー

2022/07/04

元プロ野球選手 斎藤 佑樹 さん 「これから体験することは、野球の未来にすべて還元したい」

元プロ野球選手 斎藤 佑樹 さん インタビュー

北海道日本ハムファイターズの投手として通算11年間のプロ野球生活にピリオドを打ち、2021年12月に「株式会社斎藤佑樹」を設立した斎藤佑樹さん。「野球未来づくり」をスローガンに掲げ、次なるステージに描く未来像についてインタビューしました

「プロ野球選手としての経験をベースに
『野球未来づくり』のアクションを起こす」

― 2021年12月に「株式会社斎藤佑樹」を立ち上げて新たなスタートを切られた斎藤さんですが、まずは新会社設立にかける意気込みをお聞かせください。

現役を引退して、自分には何ができるんだろう? と考えたとき、やはり「野球界に恩返しをしたい」という気持ちが強かったんです。ファイターズにそのまま所属しながら新たな活動をするということではなくて、どんなスピードであっても、まずは自分自身の足で進んでいこうと考えて、思いきって会社をつくりました。

大学を卒業してすぐにはもちろん無理だったと思います。プロ野球生活11年間の中でいろいろと体験したことや考えたことをベースに、これからは何でも新しいことができる! というポジティブな思いだけで、「会社を立ち上げてやってみよう。そうしたら何か生まれるだろう」と。まぁ全然計画的じゃないんですけれどね(笑)。



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― ご自身の名前を社名に掲げられていますが、どんな思いが込められているのでしょう?

実は社名の候補はいくつかあったんですよ。会社を立ち上げる仲間と一緒に考えた案のひとつに「株式会社斎藤佑樹」があったんです。自分の名前を社名にするのは少し恥ずかしさもありますが、自分が世の中でどう評価されているのか明らかになりますから、ある意味覚悟が決まりました。「もう逃げも隠れもしない」という気持ちでこの社名にしたんです。


― ホームページにも「野球未来づくり」というスローガンを掲げていらっしゃいますが、そのビジョンについてお聞かせください。

小学一年生から野球をずっとやってきて、「もっとこうだったらいいのに」という疑問を持ちながらプレーすることも多かったんです。野球の世界って独自の常識や仕組みがすでに確立されているんですよね。そのおかげでここまで発展してきたわけですが、だから何かを変えることはとても難しい。でも、この時代にもう必要ないのではと思うこともあるし、「この業界で働く方たちの環境改善」や、次の世代を育成するという意味で「子どもたちがキャッチボールする場所づくり」といった課題がたくさんあって、そんなことを少しずつ「野球未来づくり」としてアクションを起こしていきたいと考えています。

僕自身、現役時代はケガをしてトレーナーの方たちと接する機会が他の選手よりも多かったのですが、彼らは選手よりもグラウンドにいる時間が長いんですよ。朝は選手よりも早く来て準備をして、試合が終わったら選手のケアをする。表舞台でプレーする選手たちは、トレーナーさんをはじめ、本当にさまざまな方たちに支えられているんです。そんな彼らがもっともっと働きやすい環境をつくれないだろうか、というのもひとつのテーマですね。

野球って正解がないんですよ。活躍する選手を育てたコーチが、次もまた活躍する選手を育てられるかというと、もちろんそうではない。「絶対活躍する選手を育てる」というノウハウは、どのスポーツにおいてもないと思います。でも皆が選手のために意見を出し合って考えることはできる。そのためにも、野球界で働くさまざまな方たちが気持ちよく働ける環境というのは絶対に必要だなと思うので、僕に何ができるのかまだまだこれからですが、ゆっくり取り組んでいきたいですね。


― 子どもたちがキャッチボールする場所については、既に何か動きがあるのでしょうか。

今、子どもたちがキャッチボールをできる場所って本当に少ないんですよ。特に東京には少ない。それを僕たちが提供してあげることはできないかと考えて、動き始めています。

栗山さん(ファイターズ前監督)は、ご自身の名前と同じ北海道の栗山町に栗の樹ファームという自分のグラウンドを持っているのですが、以前栗山さんに「どうしてグラウンドをつくったんですか?」と聞いてみたんです。すると、「プロ野球のOB1000人が自分のグラウンドを持てば、野球をできる場所が全国に1000カ所増える。だからやってみよう! とつくったんだ」と。そんなことをさらっと言葉にして、しかも実際にアクションを起こしているって、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか! そんな栗山さんの姿にも刺激を受けて、野球場をつくりたいという話はずっとしていて、少しずつですが動き始めています。

 
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「夢に向かって叶えようとする気持ちは
人間にとって必要なこと」

― 現在はどんな活動をされているのでしょう?

トップアスリートの方々に話を聞きに行ったり、高校野球のチームを取材したりといったお仕事をいただいていますが、さまざまな場所へ足を運んで勉強することは、今の僕にとってすごく必要なことだと感じています。野球界以外の方たちにお話を聞く機会も多いですし、僕自身も野球以外の競技にチャレンジするなど新たな体験をしています。そこで得た野球界にない発想や体験を、最終的には野球へ還元していきたいですね。素敵なお話の数々を、今の僕がどのくらい伝えられるのか分からないですが、少なからずプロ野球という業界でプレーして学ばせてもらってきた僕なりの視点でお話を聞いて、伝えていけたらと思います。


― 取材されるお立場から、取材する立場になって見える景色は変わりましたか?

相手が気持ちよく話してくれないと、魅力的な読み物にはならないですよね。だからもちろん相手のことをしっかり勉強して取材に臨まなくてはいけない、準備なしでお話を聞くのはすごく怖いと思いました。取材相手がこれまで生きてきた経験や実績など背景を勉強して、その上で元プロ野球選手の視点で質問を投げかけようと心掛けています。逆に、これまで僕はこんなふうにインタビュアーの方たちに取材してもらっていたんだということを実感できて、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。



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― 独立してからいろいろな場所でビジョンを語ってこられたと思いますが、半年近く経ってどんな変化がありましたか?

言葉にして発信し続けることで、一緒にやろうと手を挙げてくれる方たちが出てきました。野球場の話もそうです。34歳になった今、夢を語るというのは気恥ずかしさもあって声を大にして言えることではないのかもしれませんが、やっぱり子どもの頃も今も一緒で、夢に向かって叶えようとする気持ちって人間にとって必要ですよね。その夢がなくなったら、きっとつまらなくなるだろうなと思います。


― 趣味で始められた写真についても本格的に取り組んでいるとお聞きしました。現在各地で開催中の写真展では、野球少年をとらえた作品も多いですね。どんな思いで写真を撮っていらっしゃるのでしょう?

例えば、野球少年たちがプレーしている写真を撮って、子どもたちやその親にプレゼントするとすごく喜んでくれるんですよ。あるとき写真をプレゼントしたら、その晩、その子が普段より素振りを一生懸命やっていた、と聞いたんです。「自分にはこんなカッコいい一面がある」と気づくことで、子どもたちのモチベーションはすごく上がるんですね。僕が子どもの頃もそうでした。「野球をやってる俺ってカッコいい!」と胸を張りたい。

子どもたちが何かに一生懸命に取り組む姿って本当に純粋ですよね。思いがけない一瞬が撮れたりする。僕にとってカメラは、野球だけじゃない、その奥にあるものを見るためのアイテムでもあります。そういった意味でも、写真を撮ることはこれから僕ができる活動のひとつだと思います。



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― 球場では試合後にスッと帰られる選手も多いなか、斎藤さんがファンの皆さんにずっとサインをされている姿がとても印象的でした。

僕も入団したばかりの頃はなかなかそうできなかったんですよ。ファンの方が集中してしまって、ひとりひとりに対応するのは難しかった。2年目に肩をこわして、なかなか結果を出せなくなったとき、そんな中でも応援してくれた方たちには本当に励まされましたし、野球を続けるモチベーションになっていました。サインを書くのはほんの数秒のことですが、また野球場に足を運んでくれたり、斎藤佑樹のことを応援しようという思いにつながったりするのならば、僕自身にはもちろん、野球界にも返ってくるのではないかなと感じたんです。そんな思いでできる限り、サインの要望には応えていました。それは今も変わらないですね。

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「文字に書いて『見える化』することで
頭の中が整理される」

― 以前、ご自身の高校時代について書いた記事に、「一人ひとりの意図や課題、反省を『言語化(見える化)』することでチーム内の相互理解が必ず深まる」とありましたが、実際に文字として書いた言葉が持つ影響力について、斎藤さんのお考えをお聞かせください。

早稲田実業時代、当時バッテリーを組んでいたキャッチャーと監督との3人でミーティングをしたというエピソードのことですよね。あのミーティングでは、それまでわざわざ言葉にして確かめなかったことを、ホワイトボードに書き出して「見える化」するという作業をしました。

バッターに対して自分はどんなボールを投げてきたのか、どういうボールが打たれてきたのか、得意意識を持って投げているか、苦手意識を持って投げているか、それをすべて書き出すことで、自分自身だけでなく第三者が見ても、「斎藤ってこのボール得意だよね」と意見をもらえる。すると、選択肢はたくさんあったはずなのに、やるべきことが明確になるんです。それって、文字を書くことでしか得られないことだと思うんですよね。

これは高校時代から現役時代もずっとやってきたことのひとつで、今も文字にして書くことをよくしています。


― 今はどんなときに書いていらっしゃいますか?

オンラインで打ち合わせをするときも、手元にノートを置いてそこにどんどん書いていきます。すると、すっきり頭の中が整理されていくんですよ。例えばお仕事のオファーをいただいたとき、「これは野球未来づくりにつながるのか? 素敵なお仕事だけれど野球の未来にあまり直結しないな」というときには、お断りすることもあります。でも「これってもしかしたら、こうつながると野球未来づくりに関係あるんじゃないかな」などと書きながら考えて腑に落ちたらお受けします。書き出していくと大体がつながっているので、あまりお断りしないんですけどね。自分の中で軸がブレないように、普段から言葉で書いて整理するようにしています。



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契約時のサインなど、ここぞ!というときには万年筆をよく使うという斎藤さん。パイロットの万年筆「カスタム742」で直筆のサインを書いていただいた。



― お手紙を書くことも多いと伺いましたが、どんな場面で書くことが多いのでしょう?

引退してから書くことが増えました。お礼のメッセージはSNSやメールでももちろん伝えられますが、僕自身、手書きの手紙を受け取るととてもうれしいんですよね。


― これまでに印象に残っているお手紙はありますか?

真っ先に思い出すのは、栗山さんからもらったものです。2012年に開幕投手を務めたのですが、そのとき監督室に呼ばれて手紙を手渡されたんです。そこには「今年の開幕は佑樹でいく」と書かれていました。それはもう、ものすごくうれしかった。口頭で伝えることもできたと思いますがそうではなく、それが手紙であったからこそ強く胸を打たれました。たった2行くらいの短い文面でしたが、思いがすべてそこに凝縮されていて、その手紙はもちろん今でも大事にとってあります。栗山さんの言葉の力はとても強くて、今僕が手紙を書いているのも栗山さんの影響が大きいですね。

引退してからの話では、CMのお仕事でご一緒したクリエイターさんからのプレゼントに添えられたお手紙もとても感動的でした。「これからも一緒にがんばっていきましょうね。斎藤さんが歩む道をともに歩めますように」という主旨の言葉が綴られていたのですが、それがもう天才的な文面で泣けてきました。言葉が心に響いた出来事でしたね。

視覚的に目に映る言葉には重みがあります。例えばCMなどでも出演者が直筆で書いた文字が画面に映ることってありますよね。「文字には人となりが表れる」といいますが、そんな手書きの文字を見ると、本当にその通りだなと実感します。だから僕もできる限り、手書きの手紙でメッセージをお伝えしていきたいと思っています。



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斎藤 佑樹 さん 元プロ野球選手 / 株式会社斎藤佑樹 代表
群馬県生まれ。2006年、早稲田実業3年時の夏の甲子園で激闘の末に優勝を飾り、一躍全国区のスター選手に。早稲田大学入学後からすぐに主戦投手として活躍し、4年時には主将も務めた。2010年のドラフト会議では1位指名で4球団が競合した後、北海道日本ハムファイターズに入団。ルーキーイヤーから6勝をマークし、プロ2年目の2012年には開幕投手を務めた。その後、度重なるケガに悩まされながらも通算11シーズンを送り、2021年に現役を引退。同年12月に株式会社斎藤佑樹を設立。全国の高校球児や各界のアスリートの取材、CM・バラエティー番組への出演、写真展など、多方面で活動を広げている。株式会社斎藤佑樹公式HP https://saitoyuki.jp

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斎藤佑樹さん 公式インスタグラム

元北海道日本ハムファイターズ・斎藤佑樹さんの日々の活動や、自身の想いを発信するインスタグラムアカウント。

斎藤佑樹さんのインスタグラムはこちら 〉〉〉@yuki____saito


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