子どもたちに伝えたいのは生きる喜び、劇団四季だからこそできる社会貢献活動とは。

2024/04/10

子どもたちに伝えたいのは生きる喜び、劇団四季だからこそできる社会貢献活動とは。

劇団四季に聞きました。

子どもたちに演劇の感動を届けたいー 年間約3000ステージの芝居やミュージカルを上演する劇団四季は、演劇活動とともに長年にわたり「こころの劇場」や「美しい日本語の話し方教室」といった子ども向けの社会貢献活動を、一般財団法人舞台芸術センターと共に実施しています。パイロットコーポレーションは、小学生や中高生に向けた社外支援・教育支援を重点的に行っており、舞台を通して青少年の豊かな情操を育むという劇団四季の活動の趣旨に賛同し、協賛を行っています。今回は、そんな劇団四季の活動にスポットを当てご紹介します。
演劇を通して子どもたちに伝えたいメッセージとは。そして子どもたちの反応は。社会貢献活動を統括する劇団四季 社会事業部長の中川明美さんにお話を伺いました。

舞台の上から語りかけるのが、劇団四季の仕事

 「始まる前はソワソワしている子どもたちも、いざ幕が上がると無我夢中。登場人物の一人になりきったように、こちらがびっくりするほど舞台の世界に入っていきます」

 「こころの劇場」を観劇する子どもたちの様子を楽しそうに語る中川さん。「こころの劇場」とは、劇団四季が舞台芸術センターと共に2008年から実施している子どもたちに演劇の感動を届けるプロジェクトで、学校単位で日本全国の小学6年生を劇団四季のファミリーミュージカルに無料で招待しています。年間約140都市、400回の公演を行っています。

 「「こころの劇場」の前身は、1964年から半世紀近く行われた「ニッセイ名作劇場」です。日生劇場でスタートした児童招待公演で、日本生命主催のもと、劇団四季が出演団体として携わってきました。この取り組みを四季と舞台芸術センターが拡充させたのが、2008年に始まった「こころの劇場」です。また、2007年頃、子どものいじめが社会問題として深刻化していました。そういった社会問題に劇団四季としてどう向き合うかを考えた時、『我々は舞台の上から語りかけることが仕事である』『みんなで一緒にミュージカルを観て、いじめについて考えてほしい。未来の日本を創る子どもたちに、生きていくうえで大切なことを伝えたい』と考え、いじめ問題に触れた『ユタと不思議な仲間たち』を上演しました。それ以降も、「こころの劇場」では劇団四季のファミリーミュージカル(※)を上演しています」
(※)小さなお子様から大人の方までご家族一緒に楽しめる作品。「生命の尊重」「愛」「勇気」など生きる上で大切なことが謳われています。



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2023年度「こころの劇場」上演作品 歌詞リーフレット

 日本を開国に導いた中浜万次郎の半生を描いた『ジョン万次郎の夢』や、心を持つロボットと子どもたちの心の触れ合いを描いた『エルコスの祈り』などいろいろな作品を上演していますが、ミュージカルを通して子どもたちへ伝えたい劇団四季の思いとはなんでしょうか?

 「『ジョン万次郎の夢』は、いろいろな困難があるけれど、あきらめずに努力を続け勇気を持って成し遂げること、『エルコスの祈り』は個性を大事にすること、仲間を信じること、思いやりや許す心を持つことなど、それぞれにテーマがあります。すべてのファミリーミュージカルには、生きていくうえで大切にしたいメッセージが込められています。」

 こういったテーマは本来、学校の道徳の授業で扱う内容になりますが、教室で子どもたちに説明してもなかなか伝わらないけれど、2時間のミュージカルを観ることで、子どもたちの心にストレートに届けることができていると先生方からの評価も高いといいます。

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子どもたちから届く感想文にほろり
いつも楽しみにしているのは、子どもたちから届く感想文。

 「我々がハッとさせられるような感想文が多いんです。いじめがテーマのミュージカルを観た子から『いじめって、かっこ悪いと思いました。だから僕のクラスからは、いじめをなくしました』という感想が届いたときは、我々のメッセージがきちんと届いているのだなと、とても感動しました。文章が得意な子は手紙で、絵が得意な子はイラストで、いろいろな形で私たちに感動を届けてくれます。そういったことは人の心を動かしますし、思いを伝えるうえではとても重要なことだと思います。」

 劇団四季の俳優さんやスタッフさんも「こころの劇場」の活動には、大きな張り合いを感じているといいます。「子どもたちというのは非常にシビアで、面白くないと感じたらすぐに飽きてしまい、おしゃべりを始めたりします。公演する劇場は、離島など500人規模のところもあれば、2000人規模のところもあります。それだけ多くの子どもたちを物語に引き込んでいかなければいけませんから、ものすごく大きなパワーが必要です。俳優やスタッフは、子どもたちにこのメッセージを届けるんだと強い思いで取り組んでいます」

 「こころの劇場」のもうひとつの大きな役割は、いつも一緒に勉強したり、遊んだりする友だちとミュージカルをみるという特別な体験をし、感動を共有できることにあります。

 「友だちみんなと劇場に行くというワクワクに始まり、舞台を観終わってからも、歌を口ずさみながら帰っていき、次の日も、またその次の日も、『あれが面白かったよね』『私はこう思った』と共通の話題がずっと続く。舞台を観たその日だけでなく、その経験がずっと子どもたちの心に残るんですよね」

 だからこそ、責任重大と中川さんは言います。

 「ほとんどの子どもにとって「こころの劇場」は初めての演劇体験になるので、「あまり面白くない」、「ミュージカルってこんなものか」と思われたら演劇界にとってはマイナスになります。「演劇って楽しいな」、「また観に行きたい」、「いつか自分でチケットを買って観に行こう」と思ってもらえるよう、最高の舞台をお届けすべく劇団員一丸となっています」

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母音をきちんと発音すれば、日本語はきれいに聞こえます

 劇団四季と舞台芸術センターで行っている社会貢献活動はもう一つ。全国の小学5、6年生を対象に行っている「美しい日本語の話し方教室(※)」です。話し言葉としての日本語を美しく正しく話すことの大切さを子どもたちに伝えたいという思いで、2005年よりスタートしたこの授業には、これまでに全国各地の小学校で、のべ7714校、63万人の子どもたちが参加しました。
(※)新型コロナ感染症拡大の影響により、現在は活動を休止、再開に向けて準備中。

 「この取り組みは、俳優3名とスタッフ1名で小学校に出向く、いわゆる出張授業です。もともと劇団四季の作品は、俳優の台詞が明晰に聞こえるという評価をいただいていますが、その元となるのが『母音法』という方法論です。日本語は母音と子音でできていますが、子音は口の形で、それだけでは発声できません。日本語の音は殆どが母音で、母音と子音が組み合わさることでその音が出るのです。そして、言葉が明晰に聞こえるためには、一音一音が分離し、等間隔に並んでいることが大切。つまり、母音をきれいに発音し、一音一音が分離していれば、言葉がきれいに聞こえるということです。」

 授業の前半は、この母音法について説明し、後半は劇団四季のミュージカルの楽曲を、前半の授業で習得した母音法を意識しながらみんなで歌います。母音法に基づいて、歌詞を正しく伝える方法とともに歌を通して「思いやり」や「友情」など歌詞に込めた思いも届けています。

 「こころの劇場」とともに、『美しい日本語の話し方教室』も先生からの反響が多いのだとか。

 「大人しい子が、あんなに大きい声が出るんだ、あんなにはっきり喋れるようになるんだ、と、いつも先生から驚きのコメントをいただきます。子ども自身もはっきり聞こえる話し方が面白いのか、帰るときには習ったばかりのことを活かして、『さようなら』を母音だけにして『あおーああ』なんて挨拶してくれるんですよ」

 気持ちを伝えるために「言葉」は必要。「話して伝える」ことは一番大事にしていることといいます。 「もともと劇団四季では、『演劇は文学の立体化』と考えており、俳優が感情を表現するのではなく、作家が書いた台詞をお客様にしっかり届けることを一番重要視しています。学校教育の中では、書くことと読むことは習いますが、話すことは習いません。そこを子どもたちに伝えるため、授業をつくらせていただいています」

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 子どもの教育に真摯に取り組んできた劇団四季。パイロットのパーパスは「人と創造力をつなぐ。」ですが、劇団四季では子どもたちの創造力を育むために、どんなことを大切にしているのでしょうか。最後に中川さんに尋ねてみました。

 「体験するということでしょうか。演劇というのは総合芸術です。舞台上の俳優だけで成り立つわけではなく、そこに衣装や照明、音響、舞台装置といった、いろいろな要素が必要です。また、作品をつくる過程においても作家が書いた台本があり、それを演出する演出家、音楽をつくる作曲家がいます。また劇場には案内係のスタッフがいて、そして客席にお客様がいる。すべてが揃って成立する芸術です。子どもたちの感性にそのプロセスのどの部分が響くかは、子どもによって違いますが、そういった芸術に触れる、体験するということは、創造力を育むには大切なことなのではないでしょうか」

 実際に、劇団四季の俳優やスタッフの中には「こころの劇場」を子どもの頃に観たという方が多いといいます。入社式の後に懇親会のような交流の場があり、そこで尋ねるとかなりの確率で「こころの劇場」を観劇したことがあるといいます。「どうして劇団四季に入りたいと思ったのか?」「どんな仕事をしたいか」を尋ねると「こころの劇場」に携わりたいという人も多いんです。やっぱり、自分が受けた感動が非常に大きかったので、今度はそれを届ける側になりたいと思い目指してくれるのではないでしょうか。」

 劇団四季の作品には、「人生は生きるに値する」という思いが詰まっています。 「子どもたちにも、そんな思いを受けとってもらえるといいなと思います。そして将来に向けて希望を持ち続けてほしいですね」

 人が生きていくうえで最も大切な「命の大切さ」「思いやりの心」「信じる喜び」といったメッセージに観劇を通して触れ、感動を覚えることで、子どもたちにとって将来の夢の支えとなっていることに希望や可能性を感じました。

 人の「創造力」と、とても密接な関係にある「こころの育成」。子どもたちが大きな夢を描ける未来のために、パイロットでは「こころの劇場」への協賛をはじめとした、企業活動を通して子どもたちの「創造力を育む」機会をこれからも応援していきます。



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取材協力:劇団四季 社会事業部長 中川 明美 さん

劇団四季

俳優、技術スタッフ、経営スタッフ約1400名で組織される大規模な演劇集団。日本国内の専用劇場を拠点に、ストレートプレイ(芝居)、オリジナルミュージカル、海外ミュージカル、ファミリーミュージカルなど幅広いレパートリーを上演。2005年から「美しい日本語の話し方教室」、2008年から「こころの劇場」といった社会貢献活動に取り組んでいる。

劇団四季 公式サイトはこちら 〉〉〉劇団四季 公式サイト

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