手で書いて推敲することは、理想の作品に近づくための手段。[武田 ひか さん / 短歌]

手で書いて推敲することは、理想の作品に近づくための手段
[武田 ひか さん / 短歌]

2024/2/5

      

5・7・5・7・7の音数をベースとした現代短歌の世界で、自分自身が読んでいて気持ちがいい作品をつくり続けている武田ひかさんをご紹介します。

あなたの創作活動について教えてください

口語新仮名で現代短歌をつくっています。言葉を通してなにか異次元に接続するような短歌が生まれたら良いなと思いながら、日々短歌をつくっています。日常のなかの発見や言葉の意味というよりも、論理を超えて体感として訴えかけてくるような表現を心掛けています。また、既存の言い回しを分解していくのも好きな手法です。

連作(複数首をつないで一作品とする短歌創作の形式)においては、プリントアウトしたものから受ける印象や甘い部分など思いつくままに赤ペンを入れながら推敲をしています。思いついたフレーズを走り書きすることもあります。長い連作になればなるほど推敲の回数は増えます。2023年秋につくった30首連作では、完成までに7回の推敲を重ね、プリントアウトするごとに並び変えたり、5、6首落として新たにつくったりしながら、合計で100首ほどの創作を経て完成に至りました。

創作のアイデアは
どのように生まれてくるのでしょう?

ふと思い浮かんだ言葉を書き留めるようにしていますが、定期的につくる時間を設けることで、強制的に言葉と向き合って生活の中での蓄積を短歌にしていくことが多いです。強いて言うなら、短歌作品を読んだり、映画を見たり、他の創作に触れているときほど短歌が生まれてくるように思います。 また、煮詰まったときは散歩をします。散歩中になにかが生まれることはあまりないのですが、なんとなく良い感じで次の創作にいける気がします。東京に拠点を移してからはスパ施設によく行くようになり、一日こもって短歌を書くこともあります。

作品を創る上で
心掛けていることを教えてください

自分自身が楽しめる作品をつくることです。作者が第一読者として楽しめる作品でなければ誰かが楽しんでくれることはないのではないでしょうか。楽しい作品は、読んでいて気持ちがいい。意図していることが、自分の中で思い描けるかどうか、音、意味、言葉の並び、すべてが納得できるバランスかどうかを大事にしています。つくっているときは読者の存在を積極的に考えないようにして、自分が使いたい言葉やつくりたい景色のみを考えて制作します。また最近は、尊敬する歌人の語彙を取り入れすぎてしまう傾向を排するために、単語の選択にも気を配っています。自分で連作批評会のようなイベントを企画したり、歌会に出たり、友人に読んでもらったりすることで、読者に伝わるかどうかを確認しながら推敲を重ねて仕上げていきます。

あなたにとって「かく(書く・描く)」こととは?

書くことはライフワークであり人生そのものです。学生時代に短歌に出会ってからというもの、短歌を書くこと・短歌のことを考えなかった日は一日もないような気がします。普段は会社員として仕事をしていますが、休みの日も短歌の本を読んでいます。もはや短歌のない人生は想像できません。 また、実際に手で書くことは、自分の理想の作品に少しでも近づくために重宝してきた手段です。この作業なくては納得がいく作品はつくれませんし、とても重要だと考えています。AIがもっと発達したり、ほかの便利なツールができたりしたとしても、手で書いて推敲することは辞めないと思います。

創造力の源は何ですか?

短歌以外にも映画や音楽や散文などを鑑賞して、そのエネルギーに感化されて書くことが多いです。最近は、他の作品の言葉を受けて、自分自身で体感してから再構成するようなつくり方にハマっていました。自分の体から出てきた言葉が5・7・5・7・7の不思議なリズムの器に上手くのって、言葉がさらに輝きはじめる感覚は癖になります。 また、歌人同士で話すのはもちろんですが、シェアハウスの同居人であるバンドマン、ダンサー、映像作家のアーティストたちと話をしたり作品を見たりすることはとても刺激になっていて、自分ももっとつくりたくなります。

photoトップメイン:グループ展「colony vol. 05」で展示した作品。タイトル:「短歌における〈私性〉というのは、作品の背後に一人の人の――そう、ただ一人だけの人の顔が見えるということです。 ?」 photo1:「反芻」というタイトルでつくった5首連作の短歌。 photo2:「岡山の空の色」。ひさしぶりに岡山にいったときに、あまりに綺麗で撮った空の写真。photo3:連作をつくるときはプリントアウトして、推敲を重ねる。1回目、2回目と手で書いていく中で、ストーリーが見えてくる。 photo4:歌人二人でつくった私家版の本。左から『銃と桃売場』武田ひか・篠原治哉、『囁き記』武田ひか・石村まい、『硝子回覧板』武田ひか・津中堪太朗。 photo5:日々風景が変わりゆくシェアハウスのキッチン。ジャンルが異なる表現者の仲間たちから日々刺激を受けている。

武田 ひか さん
武田 ひか さん
短歌を始めて以来、ずっと短歌について考えています。短歌の実作・鑑賞、評論文やエッセイなどの執筆の他にも、短歌が好きな人・気になる人のためのオンラインコミュニティ「ヨミアウ」や荻窪のバーで月に一度「金ぴか歌会」を主催。自分のネガティブで人に迷惑をかけるのをやめたい、と思いながら暮らしています。2023年12月には絵画・立体・イラスト・メディアアートなど様々なジャンルの作家グループ展「colony」に出展。みんなに短歌を書いてもらえる展示をしました。短歌はまだまだ人口が少ない創作ジャンルですが、短歌つくったらぜひ読ませてください。歌会やオンラインコミュニティに遊びにきてね。

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