ガラスの透明感と豊かな色彩の七宝で描く、美しい植物の世界
[塚原 梢 さん / ガラス胎七宝]
2025/08/18
ガラスに有線七宝を応用したガラス胎七宝という技法で、独特な美しい植物の世界を描くガラス作家の塚原梢さんをご紹介します。
銅や銀などの金属の本体に銀線で模様を描き、ガラス質の釉薬を焼きつけて表現する一般的な七宝と異なり、ガラスに有線七宝の技法を応用した「ガラス胎七宝」という技法で制作しています。金工とガラスという二つの素材を学んだことによってできる独自の表現を模索した結果、それぞれの素材の良さを合わせたこの技法にたどりつきました。板ガラスの上にリボン状の銀線を立てるように置いて模様の輪郭を描き、その間に竹串などを使ってパウダー状の色ガラスを置いて電気炉で焼成し、上面を研磨することで銀線の模様が表面に現れてきます。すりガラスのマットな透明感と鮮やかな色彩、繊細な銀線のきらめきがとても綺麗です。
代表的な作品は、植物の茎の断面の模様(維管束)や季節の花から着想を得た、自然をモチーフにしたもの。もともと植物が好きで、美大の4年生の頃、植物図鑑で茎の断面図の写真を見て、見えない部分にも花のような細かいレースのような繊細な模様が広がっていることに心惹かれ、こうした細かい柄をガラスに落とし込めないかと興味を持ち、「ガラス胎七宝」の技法にたどり着きました。短大時代に専攻していた金工で習った七宝は銀線で細かい模様を描くことができるので、その後の美術大学で学んだガラスと七宝を組み合わせれば、繊細な模様が入ったガラス作品を作ることができると考えました(もともと存在していた技法でしたが、それを知らずに独自で実験を繰り返して取り組み始め、のちにこの技法があったことを知りました)。「ガラス胎七宝」の作品として完成するまでには長い時間がかかりましたが、植物の茎の断面の模様は、16年経った今も大事にしているモチーフの一つです。
大事にしているのは、自分自身が、こんなものがあったら「楽しい!」「綺麗だろうな」「かわいい!」と感じたり、心ときめいたりする感覚。アイデアが浮かんできて、やってみよう! という思いに突き動かされて創作しています。これまで技法的にできなかったことが、少しずつできるようになると嬉しくなって、作りたいものがうまくできるようになった達成感で、「次はこういうものを作ってみよう!」と、挑戦したい作品のアイデアが浮かんできます。
自分の好きなものを作り続けるために、柄(絵)を描くことは必要なことだと考えています。作品はもちろんですが、それ以外も、器や洋服、文房具などどんなものでも、柄の入ったものが好きです。そしてその柄は、やはり植物がモチーフとなっているものが多いです。
作品を観た方が褒めてくださったり、実際に使ってくださったりするととても嬉しく、その積み重ねが原動力になっています。北陸は自然豊かで昔ながらの文化が残っている場所がたくさんありますし、もともと植物が好きなので、時間のある時にはそういった場所に出かけては季節の花や景色の写真を撮って、作品のモチーフにしたり、色付けする際に自然の色合いを参考にしたりしています。
photoトップメイン:代表作の植物の茎の断面図をモチーフにした作品「piece of nature」直径24cm皿(2025年制作)。縁取りはプラチナ彩(さい)。photo1:板ガラスの上に有線七宝を施したパーツを何枚か作り、積層して溶着させた作品「piece of nature」積層(2025年制作)。本体が金属の通常の七宝では表せない、柄の重なりや奥行き感を意識しました。 photo2:銀のリボン状の線をピンセットやハサミを使って、一個ずつ板ガラスの上に置いていきます。 photo3:私の好きな花のあじさいをモチーフにした蓋物。金沢に住んでからお茶の文化に触れ、いろいろな茶道具に挑戦中です。茶道具にする際は香合などがあっているかもしれませんが、お好きなものを入れていただけたら......、と制作しました。 photo4:色はどうしようか、絵具にするかペンにするか考えながら作品を描いていきます。 photo5:自分で季節の植物の写真を撮って、着想を得ています。
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