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「かこう」とした瞬間から、働いてなかったチャンネルが始動する<br>[小林 絵里子 さん / ネイチャージャーナリング]

「かこう」とした瞬間から、働いてなかったチャンネルが始動する
[小林 絵里子 さん / ネイチャージャーナリング]

2025/11/17

      

身近な自然の中で発見したことや感動したこと、疑問に感じたことを絵と文章で日々記録し、その魅力を人々に伝えているネイチャージャーナリングインストラクターの小林絵里子さんをご紹介します。

あなたの創作活動について教えてください

自然画家・イラストレーターとして長く絵を描き続けてきた私にとって、ネイチャージャーナルをかくときは「作品を創作している」という認識はあまりありません。絵画制作のためのスケッチは基本的に取材であり、スケッチ自体は作品になりませんが、私は野外で描くスケッチがとても好きでした。ただ、過去のスケッチには文字情報がほとんど書かれていませんでした。ネイチャージャーナリングと出合って文字情報を入れるようにしたところ、次第に絵だけのスケッチでは得られなかった気づきや発見が広がり、同じスケッチでも、絵画制作のためのスケッチとは別モノの手法だと感じるようになっていったのです。スケッチを描きながら気づいたことを書く、文章を書いてから内容の補足としてまた絵を描く。疑問を探究していくうち、視点が広がり、思考が活性化され、好奇心が刺激され、フロー状態になる。「描く」と「書く」を両方使うことがポイントです。

創作のアイデアは
どのように生まれてくるのでしょう?

子どもの頃から自然の中で「わっ!何これ、面白い!」を見つけるのが得意でしたが、年を重ねてもそれは変わらず、ネイチャージャーナルに記録を続けることで、見つける眼がさらにパワーアップしている気がします。一歩外に出れば、必ず何かしら見つけます。朝、窓を開けて外の景色を眺めたとき、子どもと外に出かけたとき、取材に出かけたとき、プランターの植物に水やりするとき、近所の河原や山を散歩しているとき、車を運転しているとき、買ってきた地の魚や野菜などの食材、日常身のまわりにある、ありとあらゆるものが対象になり、見慣れて「知っている」ものほど、意外と知らない、見えていないことがある。自分の外の自然だけでなく、自分の内にある自然、気持ちの在り方にも目を向け、好奇心に従うことで、思わぬ気づきが生まれたりします。

作品を創る上で
心掛けていることを教えてください

自然な感情や好奇心を抑えない、「失敗」を恐れないこと。スケッチが自分の中で思った出来にならかったとき、漢字を間違えたとき...、思うようにいかなかったら、隣にもう一度かきなおせばいい。ネイチャージャーナリングやスケッチの描き方を教える活動もしているので、見た目の「完璧さ」を追求するよりも、昨日は見えなかった新しい発見をすること、「かく」ことで得た気づきの方を重視すること、それを強調してお伝えするようにしています。

あなたにとって「かく(書く・描く)」こととは?

自分の可能性を広げること。絵だけ描いていたときは、技術にとらわれ、上手下手にとらわれて、自分の見たいものを、見たいように見ていた気がします。もともとおしゃべりはあまり好きではないし、人前で話すことも得意ではないのですが、頭の中にあることを整理して描く・書くことで、思考がクリアになると感じます。なにより「かく」ことそのものが、気持ちいい。素朴な問いから、思いもよらなかった問いが生まれてきたりする。悩みがあるときは、かくだけで答えが見つかったりする。「かこう」とした瞬間から、働いてなかったチャンネルが始動する。そんな感覚が、面白いです。

創造力の源は何ですか?

常に「自分は知らない」という視点で自然を観察すること、そして変化を見つけること。毎日見慣れた風景でも、よく見れば毎日変化している。人がまったく気にも留めずに通り過ぎていく風景の中に、小さなドラマや小さな変化を見つけたとき、その小さな出来事が私の中では大ニュースになる。小さな変化は誰の身のまわりにも起きているが、ただそれが目の前にあっても、見えるかどうかなのだ。そう考えたとき、「かく」という行為がその視点を促し、ただ「自然が好きで描くことが好き」にとどまらない広がりをもたらしてくれるのです。見つけた対象を、科学的な視点で観察したり、今どんな気持ちだろう、と子どもと一緒に想像してみたりします。スマホで何でもすぐに調べることができる時代ですが、外部からの知識や固定概念に寄らず、自分の視点でものを観ることは、自分の感性と勘を磨く訓練になると思っています。

photoトップメイン:タンポポが咲き始めた早春、周辺の山や木の色、春の草花を観察してスケッチ&ジャーナリング。 photo1:高知市内の公園で見つけたスダジイのどんぐりを拾ってきて観察。 photo2:座れる場所があれば、どこでも座ってかく。 photo3:皆既月食の様子を最初から最後まで記録。貴重な機会は逃したくない。 photo4:和紙に季節の絵を描く仕事の取材でカラスウリをスケッチ。後から余白にこの日の出来事などを加えた。 photo5:自然豊かな高知県に住んでいるので、題材は尽きない。

小林 絵里子 さん
小林 絵里子 さん
自然アーティスト・ネイチャージャーナリングインストラクター。2007年に一冊の洋書を通じてネイチャージャーナリングという言葉に出合い、自然を観察しながらスケッチ&ジャーナリングを続け、2018年、日本ネイチャージャーナルクラブを設立。以降、「ものの見かた」を育むための「観察」の具体的な手法として、オンラインやリアルイベント、展示、教育現場などで、子どもから大人まで広く伝えています。自然画家・イラストレーターとしての30年以上の経験、人間行動学や脳科学、教育などさまざまな分野にまたがる学びをかけ合わせ、自然を楽しく観察しながら、自ら学ぶ力を身につけ、人がその人らしく生きることが社会貢献につながることを伝えるべく、インストラクターとして活動中。

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