2024/09/27
地域とともに歩む湘南ベルマーレのホームタウン活動。
湘南ベルマーレに聞きました。
パイロットコーポレーションの工場がある神奈川県平塚市にはプロサッカークラブ・湘南ベルマーレがあります。1990年代に「ベルマーレ平塚」として一時代を築き、親会社の撤退によるチーム存続危機を地域住民の支援によって乗り越え、2000年に「湘南ベルマーレ」と改称して再出発しました。日本のプロサッカーリーグ組織である「Jリーグ」では、クラブが本拠地と定める市町村を「ホームタウン」と呼び、その地域において、スポーツの普及と社会貢献活動を含む、地域に根付いたクラブ作りを行っています。
今回は、パイロットコーポレーションがオフィシャルクラブパートナーとして青少年育成活動を中心にサポートしている湘南ベルマーレの、「クラブ独自の地域貢献活動」や「湘南地域に対する想い」について、湘南ベルマーレ事業本部本部長の渋谷剛さんにお話を伺いました。
湘南地域の「夢づくり人づくり」に寄与するために行うホームタウン活動
湘南ベルマーレのホームタウン活動は、数多くあるJリーグクラブの中でも活動の回数が多く、年間延べ2000回以上(*コロナ禍以前)に及びます。精力的な活動の根底には、どのような想いがあるのでしょうか。
「プロサッカークラブとしては、選手がスタジアムで最高のプレーをファンやサポーターの皆さんに届けることがいちばんの商品価値だと思います。ただ、ホームグラウンドである「レモンガススタジアム平塚」で行なわれるベルマーレのホームゲームは年間約20試合しかありません。逆に言えば、興行を最大化するためには残りの約340日がすごく大事です。我々はクラブのミッションに『夢づくり人づくり』を掲げています。総合型地域スポーツクラブとして湘南地域がよりよくなるため、さまざまな形で貢献することがクラブの価値に繋がりますし、ベルマーレを応援してくださるファンやサポーターの獲得にも繋がると考えています。あとは、過去にクラブ存続の危機を救ってくれた地域住人の皆さんへの恩返しをしたいという気持ちが強いですね」
ベルマーレならではのホームタウン活動のひとつが「小学校体育巡回授業」です。クラブの存続危機を経て、「湘南ベルマーレ」と改称されてまもない2001年に、7市3町のホームタウン(*当時)でスタートしました。
「小学校体育巡回授業は、教育委員会を通して希望があった小学校の体育の時間に、ベルマーレのコーチがサッカーの指導をする取り組みです。ボール運動の楽しさだけでなく、チームスポーツであるサッカーを通じて、仲間と協力することや相手に対するリスペクト、最後まで諦めない姿勢の大切さを45分間のなかにギュッと詰め込み、子どもたちに伝えています」
大学を卒業後、普及コーチとして湘南ベルマーレに入社した渋谷さんが最初に力を注いだのが、小学校体育巡回授業でした。毎年1万人以上の小学生と触れ合うこの取り組みは今も続いており、長い年月を積み重ねてきたからこその気付きや喜びがあるといいます。
「ホームタウン活動を通して、それまでサッカーやスポーツに興味のなかった子どもたちと接点を持てたことは私にとってすごく大きな経験でしたし、少しでも子どもたちの人生のヒントになったり、何かのきっかけになったりしてくれたらいいなと思っていました。ベルマーレが小学校体育巡回授業を始めて約20年、私が教えていた子どもたちも大学生や社会人になり、教え子のなかには、将来スポーツの仕事に就きたいからとベルマーレのボランティア組織で一緒に活動してくれている子もいれば、ベルマーレが運営するフットサルコートで働いている子もいます。そうやって、ベルマーレをきっかけにサッカーやスポーツと出合い、大人になっても我々と同じ志を持ってくれている子どもたちがいることは、ものすごくうれしいですね。それはここ数年すごく感じています」
ベルマーレをキーワードに自然にできあがったコミュニティ
ベルマーレのホームタウン活動には、同じ理念を持つ他団体と手を組んで行なっている取り組みがあります。2015年にスタートした「LEADS TO THE OCEAN(LTO)」もそのひとつです。
「きっかけは、江の島を中心にビーチクリーン活動をしているゴミ拾い団体『NPO法人 海さくら』さんとの出会いでした。かつては江の島あたりに生息していたタツノオトシゴが、いまは水質が悪くなり生息していないそうなんです。そこでタツノオトシゴが再び住めるぐらい海をきれいにしようというのがLTOの目標なのですが、海に流れ着くゴミの8割は街から出ているということで、ベルマーレのホームゲーム終了後にスタジアム周辺のゴミ拾いを行っています。そうして『海につづく』というLTOの意味のとおり、みんなの心がきれいになれば街がきれいになり、川がきれいになり、海がきれいになって、タツノオトシゴも江の島の海に帰ってくる。『BELLMARE』には『美しい海』という意味が込められているように、地域の財産である湘南の海を大切に守ることもクラブの大切なミッションですし、この活動が次代を担う子どもたちをはじめ、地域の皆さんの心に届くといいなと思っています」
ベルマーレは、主に高齢者を対象としたホームタウン活動も行っており、それが「健康づくり教室」です。
「我々はサッカーだけでなくスポーツ全体を広め、さらに各競技のトップアスリートが持っているノウハウを地域の皆さんに還元したいという想いを抱いていました。そこで2002年に『NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ』を立ち上げ、それと前後してビーチバレーやトライアスロンのチームが発足し、現在ではサイクルロードやフットサル、7人制ラグビーのチームも活動しています。そのなかでトライアスロンチームには、よりよい歩き方や走り方、姿勢などのノウハウを持っている指導者がいたので、おもに高齢者の方を対象に、健康に関する知識を地域の皆さんに提供する取り組みを始めました」
当初はクラブ独自の活動としてスタートした「健康づくり教室」でしたが、ホームタウンである湘南地域の9市11町の行政からも次第に注目されるようになったそうです。
「厚木市から依頼され、市のプログラムとして展開したこともありましたし、小田原市にも同様に提供しました。クラブが独自で始めた取り組みが評価され、少しずつホームタウンにも認知されるようになりました」
2000年代初頭と言えば、ベルマーレが下部リーグのJ2に低迷している時期で、サッカー観戦の集客も大きな課題のひとつでした。そこで当時、健康づくり教室を担当していたコーチの発案で、教室の参加者をベルマーレのホームゲームに招待したところ、チームを応援してくれる方が徐々に増え、一緒にスタジアムに足を運ぶようになるなど、ベルマーレをキーワードにコミュニティが自然にできあがっていったそうです。こうした新たなファンやサポーターの獲得もまた、地道なホームタウン活動の成果と言えるでしょう。
地域貢献活動の先にベルマーレが思い描く未来
さらに、2023年には「INCLUSIVE HUB SHONAN(インクルーシブ・ハブ湘南)」を立ち上げました。
「平塚市には、盲学校、ろう学校、平塚支援学校、湘南支援学校と、4つの特別支援学校があります。ただ、さまざまな障がいに対する教育環境が整っている一方で、じつは保護者や先生、お子さん自身がそれぞれに悩みを抱えています。そこで地元企業の方から共生社会づくりを手伝ってもらえないかと相談を受け、湘南ベルマーレに何ができるかを考えました。活動の柱は大きく分けて2本あります。ひとつは、特別支援学校の課題と向き合い、なにか困ったことがあったら相談できる体制をつくること。それが『INCLUSIVE HUB SHONAN』で、同じ理念を持つベルマーレのパートナー企業の皆さんにも協力していただき、解決に導いていく。もうひとつは共生社会や障がいの分野を知らない方への啓蒙です。まずは多くの方に現状を知ってもらうために、昨年はベルマーレのホームゲームの前にスタジアムに隣接する平塚総合公園で、年齢や性別、障がいの有無にかかわらず参加者全員が夢中になれる『みんなの「たのしめてるか。」』というイベントを開催しました。特別支援学校の方々にも参加いただき、ブースを出展したり、誰もが楽しめるスポーツのチャレンジラリーを企画したり、とても充実したイベントになりました。今年も開催しようと思っていますが、まだまだやりたいこととやれることにギャップがあり、課題も感じているところです」
ほかにも、平塚市を本拠地とする3×3のバスケットボールチーム「SHONAN SEASIDE」とともにイベントを開催したり、パートナー企業と共にボッチャ体験会を開くなど、他団体から問い合わせを受けて進めている企画もあるそうです。「ベルマーレだけではできなくても、我々の理念に共感してくれた方々と手を繋ぎ、一緒に実現できるプログラムがどんどん増えていくことが理想」と渋谷さんが目を輝かせるように、ベルマーレは文字どおり「ハブ」としての役割を担っているのです。さらに今夏には、地域を支える次世代のSDGs・サステナビリティ人財育成事業「サステナトレセンProject.」も新たに立ち上がりました。
こうしたさまざまなホームタウン活動の先に、ベルマーレはどのような景色を思い描いているのでしょうか。
「2030年に35億円の予算規模のクラブになろうと、『ターゲット35』という目標を掲げています。そこにはもちろん、クラブやチームだけでなく、湘南地域の未来も含まれている。『夢づくり人づくり』のミッションのもと、地域の皆さんにいま以上にベルマーレを応援していただけるような貢献を果たしていきたい。Jリーグのクラブがある街に暮らせる素晴らしさを私自身感じていますし、同じように思ってもらえる人を少しでも増やしていくことがベルマーレの価値にも間違いなく繋がると信じています」
地域に根差し、サッカーやスポーツを通じて地元に還元する。その姿勢は、過去のチーム存続危機を地域住民の協力によって救われ、クラブの存続のために奔走した現・湘南ベルマーレ取締役会長の言葉にも表れています。
「この街があり、人がいて、クラブがある。この湘南エリアに生きているクラブとして、これからも地域を大事にしていきたい」
地域の協力のもと、存続危機を乗り越えたベルマーレのホームタウン活動には、地元への感謝の想いが脈々と息づいています。渋谷さんが語った取り組みをはじめ、これからも湘南地域のためにさまざまな活動を精力的に行なっていくことでしょう。パイロットは地域社会の持続的発展と豊かな未来社会の実現に貢献するために、湘南ベルマーレの活動を応援しています。
取材協力:湘南ベルマーレ 事業本部本部長 渋谷 剛 さん
湘南ベルマーレ
1968年に藤和不動産サッカー部として創部し、1994年にベルマーレ平塚としてJリーグに参入。2000年にホームタウンを平塚市から湘南地域へと拡大し、チーム名も「湘南ベルマーレ」に改称。90年代には中田英寿氏、最近では遠藤航選手など生え抜き選手の多くが世界的クラブや日本代表で活躍。現在チームはJ1の舞台で魅力あるサッカーと勝利を掴むべく奮闘している。また、サッカーだけでなくビーチバレーやトライアスロンなどを有し総合型スポーツクラブとして活動。20市町のホームタウンでは日々様々なスポーツ振興活動が行われ、年間活動回数は1,500回を超えている。
湘南ベルマーレ 公式サイトはこちら 〉〉〉湘南ベルマーレ 公式サイト
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